Association for Cultural Typhoon Association for Cultural Typhoon

第6期代表幹事あいさつ

post on : 2022.09.27

2022年9月17日の2022年度総会をもって、第5期幹事会から第6期幹事会に運営のバトンタッチがなされました。第6期代表幹事からのご挨拶を、ここに掲載いたします。

 

 

会員の皆さん

 

 神戸大学の小笠原博毅です。第6期代表幹事を務めさせていただくことになりました。

 カルチュラル・スタディーズを実践している人々が集い学会を組織して、10年経ちました。その間、コロナ感染の拡大を受けて中止された2021年大会を除いて、カルチュラル・タイフーンは毎年開催されてきました。各大会を成功に導いてくれた実行委員や関係者の皆さん、また国内外問わぬ数多くの参加者の皆さん、これまでのご協力ご支援に深く感謝申し上げます。また、学会発足以来、学会誌として『年報カルチュラル・スタディーズ』を発行してきました。編集作業に従事された方々のみならず、数多くの寄稿者、査読者のみなさんにも感謝申し上げます。

 カルチュラル・タイフーンの開催と『年報』の発行が、当学会活動の両輪でした。第6期を迎え、車輪の数をいくつか増やそうと思います。たとえばその1つが、大きな意味での教育です。大学生や大学院生が学会活動にもっと積極的に参加できるようなチャンネルを作ることはもちろんですが、高等教育機関の外側にも文化や社会について学びたいという人々はたくさんいます。学びの場を広げる。そこで、正規のカリキュラムが休みに入る春や夏の期間に、国内外から講師を招いてスプリング・スクールやサマー・スクールを開催してカルチュラル・スタディーズの魅力を発信し、カルチュラル・タイフーンへの道筋を作っていくというのはどうでしょうか。

 このような新しいアイデアを広く募り、学術団体としての活動を充実させていくとともに、定期的かつ恒常的に社会へのコミットメントを深めていきたいと考えています。成城大学で開催された2022年度カルチュラル・タイフーンの中心には、多様なフェミニズムを交差させて批判的な視座を作り上げていこうという意図がありました。そこには意見対立や見解の衝突もあったかもしれません。しかし対立や衝突と、分断は違います。アカデミックな討議は、揚げ足取りや空虚な言葉の応酬ではなく、知性に裏打ちされた社会性に則って行われるべきものです。そうでなければ、対立や衝突はそのまま分断にスライドしてしまいます。

 その危険を察知し共有することで、緊張感を失わずにエッジの効いた言論空間を作り上げることができるだけではなく、カルチュラル・スタディーズを表現アート、パフォーマンス・アート、さまざまな社会運動と分節化することができるでしょう。出会い、ふれあい、つながり。これらは寛容性が必須の社会ではバズワードになります。大切な価値です。しかし本当に大切なのは、出会ってから、ふれあってから、つながってから、さてどうするか、ではないでしょうか。そこを考えず、出会って、ふれあって、つながったことで思考停止に陥ってしまうと、違いや齟齬をまるでなかったことのようにみなしてしまいかねません。一度崩れたら取り返しのつかない分断の種を残してしまうのです。それよりも、馴れ合わずに群れる。一致せずに連動することを目指しましょう。だから、分節化なのです。

 気候変動も各国における極右勢力の台頭もコロナ禍による貧困の加速化も、目の前の喫緊の課題です。ロシアによるウクライナへの侵略はイスラエルによるパレスチナへの攻撃とともに、戦争暴力は恒常的であることを改めて突きつけています。ミャンマーの軍政や香港の変容は、終わりなきポストコロニアルな出来事を示してもいるでしょう。国家通貨の価値のゆらぎは、グローバル資本主義の空虚な約束が本当に空虚だったことの証明です。このような世界の悲惨に感情を揺さぶられる「知」のペシミズムと、それにもかかわらず冷徹に知性を磨こうとする「意志」のオプティミズムとを共存させる営みとして、もう一度カルチュラル・スタディーズに取り組み直してみませんか。

 さまざまな専門分野から集まった素晴らしい幹事チームができました。これから2年間、どうぞよろしくお願いします。