Association for Cultural Typhoon Association for Cultural Typhoon

カルチュラルタイフーン2020の開催中止のお知らせ

post on : 2020.03.16

カルチュラルスタディーズ学会会員のみなさん。

カルチュラルタイフーン2020で報告を予定されていたみなさん。

ご存知のように、COVID-19の感染拡大状況に対して、ついに3月11日、WHOのテドロス・アダノム事務局長は「パンデミック」としての認定を行いました。昨年12月に最初に確認されたこの未知の感染症は、3か月も経たないうちに予想もしなかった規模にまで拡大し、いまは世界中を席捲しています。日本国内においても小学校から大学まで教育機関がつぎつぎに休校となり、大規模イベントは軒並み中止されています。武漢だけでなく、世界各地で都市封鎖が次々命令され、国境をまたぐ移動が禁止ないしは大幅に制限されてしまいました。
2020年6月27-28日に開催を予定していた「カルチュラルタイフーン2020」のために、鋭意準備を進めてきていたわたしたちは、コロナウィルスに対する必要な一連の対策のうちに、過剰な同調圧力や政治的な操作が紛れ込むことに、一貫して批判的警戒心を怠らないできました。しかし、事ここに至って、アジア各域から多くの参加者が渡航すること自体が現実的に不可能になるなかで、カルチュラルタイフーンの開催そのものを今年は断念せざるを得ないと判断するにいたりました。断腸の思いではありますが、この決定を会員のみなさん、参加を予定されていたみなさん全員に、どうかご理解いただきたいと思います。なお、カルチュラルタイフーン2020に参加するためにすでに参加費をお支払いいただいたみなさんには、順次返金させていただきます。手続きは必要ございませんが、ご返金までにはしばらくお時間をいただきます。この点につきましても、何とぞご理解とご協力をお願い申し上げます。

COVID-19がもたらしたものは「例外状況」ですが、カール・シュミットやアガンベンが指摘してきたように、これはまさに例外であることによって、むしろ現代世界の政治を成り立たしめているもっとも普遍的な暴力のメカニズムを開示しています。不可視なはずのウィルスは球状の不気味な色の顕微鏡写真によって実体化され、異様なまでに恐ろしい表象に成長してしまいました。政治支配者たちはこれを機会に「決断」する自分を演出することに余念がありません。それどころか、日本では新たに「新型インフルエンザ等対策特別措置法」を制定し、「緊急事態」を宣言することで人権を制限することを可能にしようという動きもあります。さらには、ゼノフォビアやレイシズムに結びつく言説も、かれらのうちのもっとも野心的な人物によって撒き散らされています。この病気をことさらに「武漢肺炎」と呼び立てることで、これに乗じて中国に対する敵意と憎悪を煽り立てようとするひとびとは、いまや安倍政権の主要閣僚のなかに現れています。またこの本質的なトランスナショナルな感染病の危機に対して、本来ならば協力して対応すべき韓国とまったく協議することもなく、この機に乗じて不必要な政治的対立を煽る勢力が存在することも無視できません。

今後おそらくは、新自由主義的秩序のなかでもっとも収奪されてきているひとびとに、この惨事の最悪の作用が及んでいくことでしょう。ナオミ・クラインが指摘してきた「災害便乗型資本主義」が虎視眈々とこの収奪のチャンスをうかがっているに違いありませんから。カルチュラルスタディーズ学会は、たとえ「カルチュラルタイフーン2020」を中止したとしても、こうした目下の状況に対して批判的覚醒者でありつづけ、それぞれのミクロな持ち場で分析と批評を実践します。それは、まさにいまこそ「新型コロナウィルスのカルチュラルスタディーズ」が必要だと思うからです。そして、そのような最新の考察の成果を含めて、一連の混乱が落ち着きをみせ、感染拡大の危険が去ったと判断できるようになった段階で、何らかの形で会員のみなさんや、参加申請をしてくださったみなさんが、今回準備された論考を公共的に発表できるヴァーチャルないしはリアルなスペースを開示するつもりです。このための検討と調整の時間を、いますこしわたしたちに与えてください。最後に『年報カルチュラルスタディーズ』の次号は、みなさんの批判的な思考と実践の成果を発表する知的媒体として、例年と変わることなくしっかりと役割を果たすことをお約束いたします。

2020年3月16日

カルチュラルスタディーズ学会 幹事会