「それを感じられるか?」Can You Feel It ? ー グローバル化する都市への文化的介入
カルチュラル・タイフーン2016は、2016年7月2日(土)、3日(日)東京藝術大学上野キャンパスで開催されます。第14回を迎えるカルチュラル・タイフーンの歴史の中で初めて芸術系の大学で行われる今大会は、特に芸術と文化の実践、とりわけ社会や都市の編成、グローバル化との関係に焦点をあてています。
テーマとしている「それを感じられるか?(Can You Feel It)」とは、1986年に(Mr. Fingers名義でも知られる)ラリー・ハードが発表したインストルメンタルのダンスミュージックの楽曲です。この曲は、発表されるやいなやシカゴ・ハウスを代表する古典的なアンセムになりました。
この曲が重要なのは、これが最初の「ディープ・ハウス」というジャンルを作った楽曲と考えられているからだけではありません。Can You Feel Itという曲は、ハウスミュージックの重要性と美学を議論するチャック・ロバーツの声をリミックスしたバージョンとともに、ダンスミュージックと政治とを見事に結合させた楽曲と考えられたからです。この曲は、人種や国籍、階級や性別にかかわらず、ハウスミュージックとともに平等に一緒に踊ることができるというユートピア的な世界を予兆したのでした。またDJは、この曲をしばしばキング牧師の「私には夢がある」の演説と一緒にリミックスしました。それは、1980年代に冷戦終焉の直前に何かが変化していることを「感じられた」重要な瞬間だったのかもしれません。
けれども、私たちが住んでいる実際の世界は、Can You Feel Itが30年前に予言したような社会ではありません。冷戦の終焉は、新自由主義的な市場主導型のグローバル化をもたらす一方で、世界はこれまで以上に人種やエスニシティ、宗教や性別、そして階級によって分断されているように見えます。多文化主義は失敗とされ、排外的なナショナリズムが西洋の先進国では勃興しています。新たな人種主義が、宗教原理主義とともに再び形成されつつあります。フェミニズムやLGBT政治は、新保守主義からの厳しいバックラッシュに晒されています。
この危機の時代に、カルチュラル・タイフーン2016は、「それを(今でもまだ)感じられるのか」と問いかけたいと思います。私たちは、このポストフォーディズムの時代において私たちの身体や感情、欲望、創造力、そして無意識をさまざまな情動的テクノロジーを通じて管理する新しい権力の登場を目の当たりにしています。私たちは世界が急速に変化しつつあることを知っていますが、進歩や合理化、啓蒙といった近代主義の約束が疑わしくなった現在、それがどこに向かいつつあるのか分からなくなり始めています。だからこそ、この時代の「感情の構造」を理論化するために来るべき未来を「感じ」てほしいと思っています。
世界中からの参加者
カルチュラル・タイフーンは、これまで世界中、特にアジアから毎年500-1000人の参加を集めて来ました。この中に、基調講演者も含まれています。今年の基調講演者には、社会学者であるローレンス・グロスバーグ氏をお招きする予定です。またその他の基調講演者についても、まもなく発表します。
最近の発表トピック
カルチュラル・スタディーズに関するあらゆるトピック、特に新しく革新的な研究を求めます。下記のリストを参考にして下さい。
- アート・アクティヴィズムと社会に関与する芸術
- アジアのオルタナティヴスペースの形成
- 政治と身体
- デジタル時代のトランスナショナルなポピュラ—文化
- ポストコロニアル世界の基地文化と軍事主義
- 情動とポストメディア
- DIY文化とグローバル化
- クィア文化
- 検閲と表現の自由
- 映画と都市
- ツーリストの視線と移動
- 芸術と労働
- ポストドラマ演劇と日常生活
- 新しい唯物論とポスト人間主義
- トランスアジアのポピュラー音楽
- 社会運動と若者文化
- 移動的な主体性とソーシャルメディア
カルチュラル・タイフーン2016実行委員会
- 毛利嘉孝(東京藝術大学)
- 熊倉純子(東京藝術大学)
- 長谷川祐子(東京藝術大学)
- 吉見俊哉(東京大学)
- テヅカヨシハル(駒沢大学)
- クッキ・チュー(上智大学)
- 川村覚文(東京大学)
- 竹田恵子(東京大学)
- 山本敦久(成城大学)
- 諫山三武(「未知の駅」編集長)
- 居原田遥(東京藝術大学)
- 加藤聡(東京大学)
- 北村匡平(東京大学)
- 近藤和都(東京大学)
- 大石茜(筑波大学)
- 鈴木七海(東京藝術大学)
デザイン協力: ペドロ・イノウエ、ウェブ: 上岡誠二